劇団四季の俳優、日下武史さんが亡くなられたことを、たった今知りました。
劇団四季の原点、魂とも言うべき、とてもとても大切な俳優さんとの突然のお別れに、心の整理がつきません。

日下さんのお芝居は、学生時代に日生劇場で「この生命は誰のもの?」を観たのが最初です。首から下が動かない、ベッドに寝たままの芝居。尊厳死とは何かという重いテーマでしたが、日下さんの台詞は、演技というより、「リアルな生きた声」として心に響き、それは今でもしっかり私の中に残っています。

大好きだったのは、「赤毛のアン」のマシュー。
口数の少ない、不器用なマシューがアンを愛し、わが娘のように見守る視線があたたかく・・・あれは誰にも真似ができないくらい素敵だったと思います。

「鹿鳴館」の影山伯爵役も凛としていらっしゃいました。

実は、素顔の日下さんはとても繊細な方で、昔の俳優さんの自己紹介冊子で
「様々な役を演じ分けるが、本人はいたって引っ込み思案。従って、まずまずの成功を収めるためには胃薬を常備する必要がある。」というような内容が書かれていたのを覚えています。
これを読ませていただいて、舞台の堂々とした演技の裏に、私達が想像できない深い思いやご苦労が込められているのだと感じました。

大好きな舞台の俳優さんというのは、直接お会いしたことがなくても、ずっと心にあり続けます。日下さんも父のように、師のように、心から尊敬している方です。
とても寂しいです。これまでの素晴らしい舞台に感謝いたします。
心からご冥福をお祈りいたします。

主な劇団四季出演作品 (年は、初出演年)
『アルデール又は聖女』 伯爵(1954年)
『アンチゴーヌ』 クレオン(1954年)
『ひかりごけ』 船長(1955年)
『オンディーヌ』 水界の王 他(1958年)
『解ってたまるか!』 村木明男(1968年)
『ハムレット』 レイアーティーズ/ハムレット他(1968年)
『エクウス(馬)」』 マーティン・ダイサート(1975年)
『ヴェニスの商人』 シャイロック(1977年)
『赤毛のアン』 マシュー・カスバート(1984年)
『スルース』 アンドリュー・ワイク(1989年)
『思い出を売る男』 乞食(1992年)
『美女と野獣』 モリース(1995年)
『鹿鳴館』 影山悠敏伯爵(2006年)

1965年 芸術祭奨励賞
1977年 紀伊國屋演劇賞
1991年 芸術選奨文部大臣賞
1996年 紫綬褒章
2002年 勲四等旭日小受章