梅田芸術劇場シアタードラマシティで「タイタニック」を観ました。
もう一週間経ってしまいましたが、感想を書きます。



ずっと以前から気になっていた作品で、私は初めての観劇でした。
トム・サザーランド氏といえば、「グランドホテル」の演出家。
ホテルに偶然居合わせた人々の人生が交差する群像劇。
前回公演では同じ脚本を使い、グリーンチーム、レッドチームという2つの演出を用意され、私は「悲劇的」な終わり方のグリーンを観て、大変感銘を受けました。
目がいくつあっても足りない!もう一度観たい!と強く願っている作品です。

タイタニックも船に乗り合わせた人々の群像劇。
何組もの夫婦や、夢を抱いて乗船した若者の人生が次々に語られる作品でした。

開場と同時に劇場に入ると、幕はなく、セットが置いてあり・・・
舞台に誰かいる!!
タイタニック号の設計士を演じる加藤和樹さんが舞台中央の机の前に座り、何やら一生懸命書いているではありませんか!!
開演までまだあと30分もあるというのに、加藤さんはもう役になって、船の設計をしていたのです。観劇歴は長いですが、こんな演出初めて!(笑)

「タイタニック」という題名のイメージから、勝手に「大掛かりな船のセット」をイメージして出掛けたのですが、私の想像とは逆で、大変シンプルなセットであることに驚きました。
「装置を絢爛・大掛かりに作ってしまうと『船』そのものに必要以上に観客の注意が向いてしてしまうことを避けるために徹底的に削ぎ落とし、基本的に舞台奥のバルコニーと可動式の階段のみ、というシンプルなものにしている」そうです。

最近の作品ではセットが具体的で「説明しすぎる」ことが多いのですが、この作品は真逆。劇場全体をまるごと船に見立て、観客ではなく「乗客」にしてしまう・・・なんと粋な演出でしょう。

船が出てこないと思ったら、劇場全体が船だったのですね
こりゃ想像以上に大きい船だわ。(笑) うまいなぁ~

「出航に先立ちましてお願いがございます。1912年にふさわしくない音や光の出る発明機器をお持ちのお客様はご使用をお控えください。乗客の皆様はお早くお席にお付きください。」というアナウンスで、私たちはタイタニック号の乗客になりました。

そして客席を通って俳優さんたちが舞台へ。
劇場全体を使う演出なので、俳優さんはしょっちゅう客席通路を走って出入りしていました。
豪華な一等客から、三等客まで2000人の乗客を、たったこれだけの人数で演じるのですから、俳優さんたちは「早替え」の連続。
先ほどまで豪華なドレスでワルツを踊ったかと思えば、次の瞬間みすぼらしい身なりで夢を語るのです。
顔を知っている有名な俳優さん揃いなので、「あれ?屋比久さんは一等客だっけ、三等客だっけ??」と、どちらが本当の役なのか戸惑いました。

これには「タイタニック号の沈没は階級社会の終焉である。着ている服が違うだけで、一等客も三等客も、中身は皆同じ一人の人間なのだ」という演出家のメッセージが込められてると後から知りました。

映画のタイタニックはフィクションの物語がたくさん盛り込まれているそうですが、舞台版は全て実在の人物。
劇中に、タイタニック号で亡くなった方のお名前が垂れ幕に書かれて追悼するシーンもありました。

この作品は、もともと小劇場で始まった作品だそうです。
ブロードウェイ版のセットの壮大さを敢えて無くすことで、音楽と物語中心の作品にしたそうです。

俳優さんは力のある方ばかり。
どちらかというとストレートプレイ的なドラマ部分を大事にした作品という印象でした。

モーリー・イェストン氏の音楽も抒情的で、美しいと思いました。
ドラマチックというよりは繊細なメロディでした。これから何度か聴いて、ゆっくり味わおうと思います。